『黒い家』について めろきち

 

 生命保険会社に勤める主人公若槻の仕事は、保険金支払いの査定だ。保険金を支払うのに問題はないか、被保険者について書かれた書類をチェックする。ある日、苦情の処理のために訪れた家は、半ば朽ちかけたような真っ黒な家だった。そこで彼は、子供の首吊り死体の第一発見者となってしまう。この事件を不審に思った彼は、黒い家に住む夫婦について調べ始める。事件に深く関わってしまったことで彼は、もっと不気味で、身の毛もよだつような事件に巻き込まれていく。

 

 この本を読んでいって思うのは、幽霊よりも生きている人間の方が怖いということだ。物語になかには、所謂サイコパスが登場するが、人を殺すことを何とも思っていない様はゾッとする。しかし、「サイコパスは怖い」と、それだけで終わらせないのがすごいところだ。「本当に怖いのは、人格障害を持ったサイコパスよりも、自分たちの存在を脅かすものに邪悪のレッテルを貼って、いざとなったら心を痛めることなしに排除できるようにする一見普通の人間、つまり、裏切られても傷つかないですむように、何に対しても心の絆を結んだり愛着を持ったりしない人間だ」と。ニュースで見る残虐な殺人事件の犯人が、「普段は良い人なのに……」と言われることがあるのは、犯人がそのような人間だからなのだろうか。少し難しいけれど結局は、幽霊よりも宇宙人よりも、刃物を持った人間が一番怖いということだ。殺そうと思って近づいてくる人間に、普通の人間は勝てないのである。

 

 前半はじわじわと忍び寄る恐怖が、後半はスピード感のある至近距離での恐怖があり、その対比が上手く、ぐっと引き込まれる。玄関の鍵はきちんと閉めただろうかと不安になって確認しに行きたくなってしまう。(私は確認しに行きましたよ。) 鼻を衝く悪臭が行間から漂ってくるように感じ、気がついたら息を止めて読んでいた。読み終わっても怖さは消えない、それどころか読み終わってからの方が怖さを感じる、そんなホラー小説。

 ホラー好きの人には是非夜に読んでほしい。朝や昼に読むよりもゾクゾクしますよ。

 

                                                   『黒い家』[著]貴志祐介