神求 狩野ウタ
<19歳の男子学生の僕は今人生のピンチを迎えていた。そのピンチを助けたのは意外な者だった?>
僕はS県にある大学に通う19歳の学生だ。高校時代は勉強漬けの毎日だったため大学に入学してからというと初めての一人暮らしの生活と親の目から離れたのもあって昼間にある講義にはたまにしか出席しなかったり夜はアルバイトに勤しみ友人たちとは外食やカラオケなど遊び三昧の生活を送っていた。
いわゆる駄目大学生の典型的な例みたいになってしまったのだ。
「やばい」
夏休みがもうじき終わる頃、2回生前期の成績が発表され今自分がどのような立場に立たされていたのかを理解した。3回生に進級するために必要な単位が驚くくらいに足りないのである。これは何かの間違いだと思いもう一度成績を見てみるが何度見ても後期でフル単を達成しても留年する未来しかなかった。
「これ親にバレたら絶対やばいよなぁ留年なんてするはずじゃなかったのに」
僕は絶望していた高校時代の僕からは想像もできない留年という事実に。
ピロリ。
するとスマホにラインの通知が来た。気が重くてとてもじゃないが通知などに反応できる力が出なかったが 。
ピロリ。
また通知が来た。どうせ友人からの遊びの誘いだろうと思っていた。
ピロリ。ピロリ。ピロリ。
「うるさいなあ」
いい加減通知が耳障りなのでスマホを手に取り画面を見ると見知らぬ人物からの通知が数件きていた。
《あなたのお悩み解決します》
「おいおい嫌がらせかよ」
しかし、ラインでこの手の迷惑メッセージが届くのが初めてだった僕はついついそのメッセージを開いてしまっていた。
するとまたメッセージが届いた。
《あなたの単位救います》
「おいおい怖えなあ」
すると次はURLがついたメッセージが届いた。まあ暇潰しになるだろうと思いついそのURLを押してしまったのだ。
「うえあっ眩しい」
スマホの画面が光りあまりの眩しさに目を閉じてしまった僕は数秒の間目を開けることができなかった。
「え?」
目を開けるとそこにはまあまあ綺麗な3つ歳が上くらいの女性がいて僕に話しかけてきた。
「ようこそおいで下さいましたぁ。こちらはお悩み相談室おいでませ神様の部屋でございますぅ。私は神をやらせていただいております神野神美と申しますぅ」
おいおいこのお姉さん何言ってるんだ。てか何処だよここ僕の部屋じゃないしいつのまに僕移動したんだ。
「ちょっとあなた誰ですか? ここはどこなんですか?」
「だから申し上げたとおり私は神野神美。現在神をやっておりますぅ。ここは私の職場でございますぅ」
僕は口をぽかんと開けたままその神の仕事部屋に突っ立っていた。
「私は神と言ってもあれですよぉまだ半人前の神で叶えられる願いに限度がありましてぇ。実はこの度少しお願いと言いますかぁ。交渉をしたくてラインにてメッセージを送らせていただきましたぁ」
まだ僕が状況を理解できていないと思ったのか神野神美は追加でその交渉について話してきた。
「実は恥ずかしながら今回の神級への昇格試験のノルマが達成できてなくてですねぇ」
“しんきゅう”だと……
「ちょっと待ってください。しんきゅうってなんですか?」
「はいぃ。神級っていうのは我々神の世界において新人の神が一人前の神になるための試験の最終試験のことですぅ。人間界でいう○○検定1級みたいなものですぅ」
「それでノルマっていうのは?」
「人間の皆様の悩みや願い事の助力を10件することがノルマの内容ですぅ」
「なるほど、それで僕が困っているのを見て助けてくれたということですか?」
「そうなのですがぁ、あなたの単位を実際にただ増やすことはあなたのためにならないのと私の神パワーが全然足りないのでぇ」
神パワーってネーミングセンスどうにかできなかったのか。くだらなすぎて声に出して突っ込む気も起きなかった。
「で結局どうしてくださるのですか神様?」
そしたら神様は得意げな顔をして
「後期分の申請できる履修最大数に追加して進級に必要な単位を履修できるようにしておきますよぉ」と言った。
「ありがたいですけどそこまでできるならもう単位くれてもいいんじゃないですか? そんなまどろっこしいことしなくても……やっぱりその神パワーってのが……」
「まだ神として半人前なのでぇすみませんぅ」
一瞬申し訳なさそうな顔をした神様だったが次の瞬間また自信げな表情を浮かべて「それでは足りない私の神パワー分は私が人間界に降り立ってあなたの勉強をサポートするってのはどうですかぁ?こう見えても私は神ですから頭賢いですよぉ人間の学問なんて朝飯前ですよぉ」と提案してきたのだ。
今更だがこの神様喋り方なんかアホっぽいというか頼りないというか、半人前の神様の提案に乗るのは少し心配だが……
「留年はまずいよなあ」
「それでは交渉成立ということでいいですか?」
「はいお願いします」
「いえいえこちらこそ」
それから僕はこの少し頼りなさそうな神様とともに人間界に戻り、僕は留年回避のため神様は一人前の神様になるためあれやこれや勤しんでいるいるうちについに秋学期の期末テストの成績発表の日がやってきた。
「ついにこの時がきましたね。神美さん」
「えぇそうですねぇ進級できてたらいいんですけどぉ。せっかくゼミも希望のところにいけましたしねぇ」
僕は今回の留年の危機から気を改め秋学期は勉強に励んだ。失ったものは数えきれなかった。友人との楽しい食事を断りバイトのシフトを減らし勉強をした。今ここで頑張れなかったら一生自分を恨むくらいの勢いでこの半年やってきたのだ。後悔などはない。この頼りない神様とも長い間過ごし仲良くなれた。一緒にいたからか友人と食事をしなくても寂しさは感じなかったし勉強に明け暮れてたからかそもそもそんな気すら起きなかったのかもしれない。
「それじゃあ見ますね成績」
「どきどきしますねぇ」
僕は成績表が入ってある封筒を開いて成績を恐る恐る見た。
「やりましたねぇ」
「えぇやりましたよやりましたよおお」
自然と涙が溢れた。今までの努力が報われた。これで無事3回生になれるのだ。
「ありがとうございます神美さん全てあなたのおかげです。これからも真面目に残りの大学生活を送ります」
「いぇいぇとんでもない私はただ自分のためだけにあなたと頑張ってきたんですからぁ。でも実際は一緒に暮らしていてとても楽しかったですよぉ」
「本当にお世話になりました」
「こちらこそ無事ノルマを達成できたのであとは試験に通れば一人前の神になれるのですぅどうもありがとうですぅ」
そう言いながら神美さんは人間界から去っていった。
あれから月日は流れ、無事僕は4年で大学を卒業し第一希望だった企業にも就職できた。今はその会社で新人研修を受け日々忙しながらもとても充実した毎日を送っていた。こんな生活を送れているのは神美さんがくれたチャンスのおかげだ。そういや神美さんは無事一人前の神になれたのだろうか。
ブー。
スマホにラインの通知がきた。多分仕事関連で同僚からの連絡だろう。あとで返信しておけばいいだろう。
ブー。ブー。
「そんなに急ぎの用事なのかな」
仕事中だがトイレに行くフリをしてスマホを持ち出した。
「おいおいマジですか」
スマホの画面にはこう書かれていた。
《神美ですぅお久しぶりですぅあの時の試験に落ちて今またノルマに追われていますぅ何かお困りなことはありませんかぁ》
そう神が助けを求めていたのである。
おわり