巡らぬたちばな 鯵野開

 

 1

 

 君と夜を共にしてから、今までの夜がどれほど冷たく辛いものだったか思い知った。

 

「後朝の文?」

 領子はやさしく尋ねた。夕鶴はさっと文を隠す。領子は微笑いながら、「ここにまで持ってくるなんて、素敵な和歌をもらったのね」と静かな海のような瞳を夕鶴に向ける。叱られたように感じた夕鶴は「……ごめんなさい、お稽古しましょう」と顔に熱が集まるのを感じながら、琵琶を慌てて手に取った。

 幼い頃、説教の後に和尚の琵琶を聴かせてもらい、何度も琵琶を習いたいと駄々を捏ねた。呆れた母親が本当は男が習うものなのよ、と言いつつ、渋い顔をする父親にその和尚に琵琶を習うのを引き継がせてくれた。和尚は嬉しいが、女が習うものでもないですよ、と言いつつ、もう一人弟子を紹介してくれたのが当時内親王であった領子だった。領子は、さしずめ姉弟子と言ったところである。

 母親の陰に隠れながら領子とはじめて顔を合わせたときのことを思い出す。少女でありながら大人びて、落ち着いた空気を醸す領子は、その空気を今でも引き継いで、五年ほど斎王を務め上げたあと、都に戻り出家した。出家した領子が今では夕鶴の琵琶の師である。

 私は、こういう女性になりたかったんだった。女性としては。と夕鶴は怒られた子どもが盗み見るような目線で領子を見やる。

 琵琶の譜を読みながら、目線に気付いたらしい領子が、「別に怒ってなんかいないのに。お話を聞かせてくれないのね」と呆れたように笑う。夕鶴は「素敵な和歌でしたけど……、相手が相手ですから」と苦笑した。領子は譜を畳に置きながら、慮るような目線を送る。なにか言いたげなのに見守る視線に、夕鶴はあやふやな笑みを返した。

 

 帰り際、夕鶴は領子に向き直って話をした。何度も文をやりとりし、恋仲である遠貴が、ゆうべ初めて夜に夕鶴を訪ねたことだった。内裏で何度か連絡の取次や、業務において彼の姿を見たり声を聞いたりしたことはあるものの、御簾も隔てずに異性の体に触れたのは、夕鶴にとって初めてのことだった。戸惑いもあったが、遠貴の結婚への気持ちは前向きなものだと確かめることができた。彼の熱は未だ気怠く夕鶴を覆っている。両親は、遠貴の家柄に引っかかりはしているものの、仕事ぶりや彼の人柄、歌の才を認め、夕鶴の交際相手として迎えていた。特に父親は、彼の位が低いがために出世が遅いのを懸念していた。

 その夜通いがあと二晩続けば、ふたりは夫婦となるのだが、遠貴は仕事の都合でその明日の夜に来ると文で言付けていた。

「今日はお越しになられませんが、明日の夜に、来るそうで」

 領子は驚いたあと、静かに微笑んで「そうなの。おめでたいことですね」と小さく喜んだ。撫子が花開くような笑顔に、夕鶴は、そうか、皆喜んでくれるものなのか、と他人事のように思った。

「両親は考えるところがあるようですが……まだ何があるかわかりませんし」

「そんなことを考えてはいけませんよ。何事もないように、三日の餅が食べられるといいですね」

 諭すような領子の言葉に、今更ながら、自分の結婚のことなのだ、と気恥ずかしくなった。

「熱心な方なのでしょう? なら、そのご縁を大切にしないと。愛されずに夫を待つだけの女性も多いのですし」

 領子がこのように饒舌なのは珍しいことではあったが、夕鶴はそれだけ大切なことだからだろうと思った。異性と通じることを禁じられてきた領子だからこそ、いろんな女性を見ることもあるのだろう。殊の外夕鶴によく言って聞かせた。

 

 稽古が終わって、家へ帰る牛車の中、夕鶴は夕暮を見つめた。彼の姿を思い浮かべる。誠実を絵に描いたような男だ。学問の家の生まれで、位は低いがよく漢籍に通じている。夕鶴は彼が文で漢詩を教えてくれた、古くない記憶を起こした。夕鶴も入内する前から勉学には励んでいたものの、入内して彼に出会ってからより一層漢籍への関心は強くなっていた。漢詩文を学ぶ自分が、彼の大切な人として、彼から賞賛を受けるのを、少なからず夕鶴は喜びを感じている。それが成長の喜びなのか、好意としての賞賛を受ける喜びなのかは分からない。帰ってからもまた、彼が内裏で貸してくれた漢詩集を読もう、と揺れる牛車の中で、夕鶴は思った。明日は夢の中である。

 

 

 その日は一大事業、国史の編纂に携わる者が発表される日であった。

 その中に従兄弟の頼仁の名が連なっているのを、夕鶴は見た。体は底冷えする感覚があった。従兄弟の姿を思い出す。人好きのする美丈夫。その美しい頬を――、今は燃やしたくなる。

 羨望のまなざしをその文字に向ける男たち、黄色い声をあげる女たちの中にいるのに、夕鶴はただひとりになった。夕鶴の居場所はまた小さくなった気がした。

 国史の編纂事業こそが、夕鶴の夢だった。国のために、自分の学才をあげて史料をつくりあげていく、巨大な事業。学のある女は可愛げがないと揶揄され、男を立てろと叱咤される世界で、女がそれに関わるのは夢のまた夢だった。諦めはついているが、ひとりでに夢は見る。書を開くたび、文を書くたび、仕事をするたび、男に揶揄されるたび、そうしながら才を認められるたび。夕鶴が諦めてなお焦がれて勉める夢を、頼仁は掴んだ。

 夕鶴はそれでも夢を見る。

 

 発表されてから、しばらく気丈に仕事をしていたものの、家に帰ってから一気に疲労や、諦めたはずの夢に対して外れた期待が寄せた。その報せを受け、甥の昇進を喜びながらも、両親はお前が男だったら、などとは言わなかった。自由にさせてくれたふたりだからこそ、もう、何も言えなかったのだろう。

 なにもせずにしばらく暗くなりかけていた外を見つめた。今夜来る彼を思い浮かべる。位が低いとはいえ、学問の家の男性と恋をするのも、きっと自分のそういう気持ちがある。私は何がしたいんだろうか、と、自分で動くこともなくその場で舞い上がったり落ち込んだりしていることに嫌悪する。

 日がおちていくのを眺めながら、沈む心を持て余す。

 しかし、そうはいられない。立ち上がった夕鶴は領子やほかの更衣たちと薫物合わせをした際に調合した香を焚いた。そこでふと触れた文机の上の書物に、釘付けになってしまう。初めて、父親が読ませてくれた漢詩だった。

 入内する何年か前、女の子の遊びに馴染めなかった夕鶴に、父親が唐の土産を持ってきてくれたのと、一度漢詩をくちずさんでくれたのをきっかけに、漢詩に興味を持ったのだった。

 夕鶴にとっては、自分が男ではなくとも、これは父親がくれた夢でもあり、初めて熱中したことでもあった。美しい文字の並びや、まだ知らないことを知ること、海の向こうの国を知ること、そしてそれを勉学に活かすことや、宮廷で博識の人々と論を交わすことは、夕鶴の存在価値であり、原動力だ。何百年、何千年も続くこの世界に、夕鶴の存在を刻み込むことができ、夕鶴が納得する形で残せるのは、この方法しかなかった。

 いつの間にか読みふけって、意識が戻ったようにはっとする。漢詩をなぞり、その画を指で描く。

 一生、離れることはできないのだろう、と夕鶴はそのとき思った。なら、何をすべきか、考える必要がある。

 

 日がおちてから、月明かりが爛々と縁側を照らすのを、御簾越しに眺める。縁側を静かに擦りながら近付いてくる音が耳に入ると、夕鶴は一度大きく息を吸ってから彼に聞こえないように空気へ戻した。月明かりが彼の立ち姿に遮られ、その影は夕鶴にやさしく落ちる。

「尚侍」

 いつものやわらかい声に、夕鶴はこころを大切に掬われた気分になった。ほの暗い水辺が足をとるなか、彼が呼びかけてくれたような気持ちだ。「はい」と返事をするが、久しぶりに声を出したかのように震えている。

「入ってもよろしいですか」

 そう言いながら、彼は膝をついた。夕鶴はもう一度、はい、と返事をすると、彼は御簾を上げてその顔を覗かせた。月の光でふちどられた輪郭は、いつもの彼だ、と夕鶴に確認させた。そのときにようやく、夕鶴のなかに安寧が染み渡ったのだった。彼なら、薄暗い気持ちを吐き出しても、どこかへ捨ててくれるだろうか、とも思った。

「遠貴様」

 夕鶴は、子どもが甘えるような声で遠貴を呼んだ。遠貴はなにかを察したように近くへ寄り、そっと彼女の正面に座った。心配したような顔の陰影に、夕鶴は一瞬躊躇うが、どうせ出る話題だ、と揺れる瞳を遠貴に定める。

「頼仁様が、国史の編纂事業に携わるのは、ご存知でしょう」

 自分の想像以上に重い声になったのに対して、夕鶴は不安になった。

「ええ、喜ばしいですね。あなたの従兄弟ですよ」

 遠貴はその話にどう反応すればいいかわからずに、空回りに明るい声を出す。夕鶴はそれに感慨も込めずに、はい、とだけ返した。

「遠貴様、夢はありますか」

 硬い声に遠貴は先が読めないように瞬きをした。夕鶴は瞬きもせずに遠貴を見ている。渇く眼球に涙の膜が張る。それは生理的なものだったが、認めてもらいたいという衝動の果てでもあった。

「私には夢があります」

 唇は動く。遠貴はなぜだか怖気づいてしまいそうになり、表情にもそれは出ていた。自分の言葉ひとつで、そんな表情をさせることに、自分という価値を確認してしまい、その上こちらまで怖気づいてしまう。眉根を寄せながら、沈むように俯く。こぼす。

「学問で道を開いて、国史に携わりたい、という夢です」

 遠貴の顔が強張ったのが、空気のゆがみと息の音で分かる。遠貴の顔を見上げることができずに、夕鶴は畳を見つめる。涙は出ない。夢は言葉に出したくらいでは、夕鶴を離さなかった。間に耐えられず、夕鶴の唇は動く。

「今まで以上に勉学に励みたいのです。そのためには、もっと時間が必要で……、あなたなら分かってくれると思って……。学問を志す者が、その才を上げて国の歴史を編むことを夢見ないことはないと。女だから無謀だとかは、昔から言われてきましたが、私は……」

 遠貴は呼吸ができないような苦悶を浮かべて、夕鶴の思いも寄らない、しどろもどろになりながらの話を遮る。夕鶴にも、あまり整理がついていないようではあった。揺らいだ遠貴が、珍しく感情を露わにして夕鶴にぶつける。

「私にも夢がある。貴女と結婚して、家庭を築き、子どもの成長を見届けることだ」

 夕鶴も顔をゆがめた。

「あなたもだれかの子どもなら、分かるでしょう。母と妹のふたつの役割をするなら、母でも妻でもない、私の時間をつくることがどれほど難しいか。……ただ、今はまだ、待ってほしいのです」

 遠貴が黙る。貧しい家に生まれたから、せわしく、いつも自分を気にかける母親の姿が思い出されるのだろう。それでも遠貴は、歪んだ息を吐く。

「……私は、年老いた母や父に独り身の男を背負わせたくないのです」

 夕鶴はその言葉に、理解しながらも絶望する。

 彼の言葉は葛藤に満ちており、そこに彼の優渥は在ったが、夕鶴に向けられたものではなかった。貧しい家だからこそ、父母を心配させないように、結婚をする、と。恩を返すために自分は捧げられるのだ、と夕鶴は靄がかかるような頭で、どこか遠くの地を思い浮かべるように思った。

 そのために、自分の夢を犠牲にすることができるだろうか。

 絶望とそれに付随する沈痛を、目の前にいる男にぶつける。捧げられる贄の怒りは、きっとここで伝えねば、墓場でのさばることになるだろうと。夕鶴は顔を上げた。

「あなたは、御両親を楽にして差し上げるために私と結婚するんですか」

 遠貴は驚いた表情で夕鶴を見つめる。顔を飲み込みそうな暗い影が大きく揺らめく。すぐに口を開く。

「そんなことはない、私はあなたと結婚したいからするので……」

「今は」

 夕鶴が遮る。

「今はお話することができません。お帰りください」

 遠貴の愕然とした表情に、夕鶴はこころがすっと冷めるような感覚を抱く。だが同時に、頭が冴えるような目覚めもあるように感じた。

 

 

 夕鶴の冷たくなった気持ちは、遠貴と会えない時間の中でだんだん重くのしかかる。

 昼餉を済ませた夕鶴は、化粧をしていた。琵琶の稽古があるためである。稽古場へ牛車を走らせ、牛飼いに迎えの時間を伝えてから降りる。師走で年末へと近付く風が、冷たく夕鶴の頬を撫でる。身を震わせながら、ほの暗い雲に覆われた空を背にして稽古場へと入った。

 領子はすでに火鉢を暖めており、部屋の中には外とは違った緩んだ空気が漂っていた。夕鶴はほっとした様子で「こんにちは」と挨拶をした。領子はそれに遅れて「こんにちは」と、小さな声で言った。あまり顔色が良くない様子であった。目元には隈が出来、まぶたは腫れている。

「領子様、お顔色が良くありませんが、今日の稽古は……」

「ああ」

 領子は疲れたような笑みのまま、「いいのよ。お稽古しましょう」と言った。夕鶴は心配しつつも、稽古の準備に取り掛かる。

 

 休憩に、領子が夕鶴に茶と干菓子を出した。夕鶴も、遠貴との件があってからは、食欲もなく、倦怠感が体の中に居座ったままだったので、茶だけ飲んだ。しかし、自分の暗い空気に夕鶴がつられたのかと思い、気を遣った領子が、疲れた目のまま、作ったような楽しげな声で、

「お相手の方とはどう?」

と尋ねた。夕鶴は唾を飲むような唇の動きをしたあと、苦しげな表情をする。領子はそれに少し慌てるが、夕鶴はそのまま、

「……終わったのかもしれません」

と絞り出すような声で言った。心配げに領子は夕鶴の様子を伺う。

「……私、……結婚したくないのかも」

 夕鶴は未だ葛藤の渦の中にいた。叶わない夢と、近付いた愛のあいだで、悩ましげに目を伏せたまま。領子は、その言葉に剥いたように目を大きく見開いた。夕鶴は気付かずに続ける。

「勉強をするのに、人生の時間では足りないのかも、と思ってしまったんです。……じゃあ、妻になって母になれば、それももっとなくなってしまうのではないかと」

 夢を話すのは、領子が夕鶴にとっても大切なひとだからだ。

「……その時間を、彼に捧げられるのか、と考えると、私、このまま、結婚してもいいのかと、思ってしまって」

 震える声とは反対に、夕鶴はやり場のない感情を潰すように琵琶を強く握る。その独白はある種、領子への甘えでもあった。

 夕鶴は領子を、罪を告白した子どものような目で見上げた。

 知らない女のような、ひとがいた。

「……愛しているなら、結婚すべきだと思うわ」

 領子の目は静かな海を見せた。しかし、静かでなにもかも飲み込みそうな海に、夕鶴はなにかを予感する。領子の手から琵琶が落ちる。琵琶は鈍い音を立てて畳に転ぶ。

「……私とあなた、どちらが贅沢なんでしょうね。私は……斎王になった後で、出家させられたから」

 夕鶴は目を見開く。初めて知ったことだった。

領子の目が暗く濁り、冷たい涙がこぼれた。長い柳のようなまつ毛を濡らしながら、涙が熱い頬を冷ましていく。出かけることも少ない彼女は、訪ねる人を楽しみに化粧をする。その化粧も涙の膜で削られながら、ただ、嗚咽を漏らしていた。斎王から尼へという神聖な身の転身のなかで、ただの人間であり、ただの肉体と精神を持ち、恋に憧れる女。夕鶴は舞い上がって稽古場に文まで持ってきて、恋に煩うさまを見せたことを悔いた。領子は近しい女が恋に悩むさまを見て、大きな羨望と深い嫉妬を抱いたのかもしれない、と憐れむ気持ちも抱く。自分が禁じられている恋をした人間が悩むのを見て、そう、悩むことすら羨ましい。あさましい妬みすら覚える。夕鶴はその感情を知っている。だが、私は、と夕鶴は思う。女の幸せは、恋をして結婚して、家族を持つことだけなのか、と。領子にとってはきっとそれは大きな夢だ。だが自分には、恋には揺らぎが大きく、もっと別のところに大きく夢を抱く。それは叶うことはないが、夢を見ることだけはやめられない。男にしか叶えられない夢だった。夕鶴は選んで女になった訳ではなかった。女に生まれたものの、女には許されない夢を持つことは、夕鶴にとって、領子にとっての恋や愛と同じ、苦悩の種であり、禁じられた夢なのだった。

「異母兄さまがご結婚なされるの。やっとよ」

 領子は卑屈な笑みを浮かべながら、暗い瞳を震わせる。夕鶴は内裏の彼の異母兄を思い浮かべる。学に長けるが、どこか抜けていて、愛されるようなひと。

「相手の方はね、貴女と同じで、内裏で働いていらっしゃるの。聡明で、素敵な方でね。だから私は祝えたの」

 語尾につれ項垂れていく領子に、夕鶴は苦しくなっていく。畳に涙の跡が広がっていく。天に与えられた性と、すでに与えられた使命との溝は埋まらず、彼女は苦悩の海を渡る。夕鶴は彼女の夢についてなにも言えずに、ただ、項垂れて嗚咽を漏らす領子を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2

 

「遠貴は賢い奴だ。だからきっと君を支えてくれる」

 頼仁は雪を纏った椿を眺めながら穏やかに言う。「君も賢い人だから、それは知っているだろうが」と付け加えながら、御簾を振り返った。顔を見せないのが作法ではあるが、なにも分かっていないような頼仁には、別の意味で見せたくなかった。従兄弟の頼仁は正月の挨拶を先に親に済ませ、夕鶴のもとへ遠貴からの文を届けに来ていた。

 正直なところ、あの二日目の晩から、遠貴の夜通いは途切れていたので、もう縁は切れたのだろうと思っていたため、文が来たことに驚いた。

 遠貴と夕鶴の出会いは、遠貴が仕事の際に、夕鶴が帝への連絡を取り次いだのが切欠である。はじめに遠貴が夕鶴へ文を送ろうとしたときに、その中継をしたのが頼仁であった。それ以降、頼仁の都合が合えば取り次いでいる。頼仁は位が低い学問の家の遠貴と、昔から切磋琢磨し合いながら、友情を続けてきた。

「随分遠貴さまと仲がよろしいのね」

 やや棘のある言い方になったか、と夕鶴はすぐに省みた。頼仁は御簾の向こうで笑ったようだった。柔らかい空気が伝わる。夕鶴は自分で失礼な女だわ、と思いながら、頼仁といると自分を好きではなくなっていく感覚に、きっとこれは霜月からね、と思った。頼仁は人を褒めるのに、屈託無く話す。素直な気持ちが素直なまま伝わるのだ。

「小さい頃から一緒にいたからな。元服も一緒に迎えたんだよ」

 得意げに言う横顔は、昔はよく遊んだ幼い面影を想起させる。仕事のよくできる美丈夫であり、彼は実際公達の中でも人気があった。結婚に遅れているのは、彼が激務だからだろうと夕鶴は思った。現在、頼仁は去年の霜月に、今年の国史の編纂事業に選ばれた。若くして学才に長けた頼仁は、次の参議に有力視されている。

 自慢できる従兄妹だからこそ、夕鶴は僻みを覚える。男だから国史に触れる権利が与えられたのだ、などと醜く妬む自分の心情に、夕鶴は苛まれる感覚に襲われる。目の前の扇に顔を預けて、小さな溜息を吐くと、頼仁はこちらに向き直った。

「疲れているんだな。悪かったよ、ゆっくり文を読むといい」

と申し訳なさそうな、反省した声音で夕鶴に詫びる。夕鶴は

「ごめんなさい。これから宮中の行事も多いでしょうし、お互い頑張りましょうね」

と辛うじて硬い笑顔をつくった。縁側の向こうへと消える頼仁を見送った。

 眉根を寄せながら、自分を嫌いになりそうだ、と頼仁が消えたのを確認してから、前よりも大きな溜息を吐いた。気を切り替えて、遠貴からの文を丁寧に解く。お互いに言い争ったように気まずくなったまま、忙しい年の暮れに入ってしまったので久々の文だったが、相変わらず綺麗な手蹟を書く遠貴に想いを馳せた。また、こうして文をくれたのはまだ好いてくれているからかしら、と、自己嫌悪に陥りそうなときにちぐはぐに前向きになるのは、きっと自分が認められたがるからだな、と他人事のように思った。諦めたように自分に冷たくなるのは、夕鶴の悪癖だった。

 遠貴の文には、夕鶴の夢を否定するつもりはないこと、結婚はしたいことが書かれてあった。最後に『貴女のことを幸せにしたい。貴女が自分のことを嫌いになりそうな時、諦めそうな時に、私が傍にいたいと願うのです』と括られ、いつものように、いや、いつもより丁寧な、切実さが滲むような手蹟に、夕鶴は心がじわ、と揺れながら滲むのを覚えた。夢はまだ夕鶴を掴んで離さない。揺さぶられるせいで、たまに吐き気がするくらいに。漢詩を思い出すのだ。支えてくれる人と揺さぶる夢。支えてくれる人は、私を満たすだろうか。その役目を果たすのは、私の心を占める夢だけかもしれない。

 遠貴と言い争った夜を思い出す。遠貴は親を大切にする人間だ。だが、あの言葉を受けてから、結婚を贄として捧げられるように感じたならば、これからの彼との距離は埋まるだろうか。刹那的に湧き上がった悲憤が、夕鶴の本性なのではないか。

 私は、彼のことをほんとうに愛しているのだろうか。

 夕鶴は筆を執った。

 

 

 椿が綺麗だな、と薄い水干をさすりながら遠貴は言った。白い息が生まれては空気に溶ける。頼仁はそれを眺めて、ああ、綺麗だな、と呟いた。雪を鳴らしながら前を進む遠貴の頭を見やる。昔と変わらない丸く綺麗な形をした頭。その後ろから見た顔は、元服のときに緊張した面持ちから影を残して、仕事をする大人の男になっていた。

 寒そうな友人に呆れながら、頼仁は隣を歩いた。

「おい、俺の家に寄ろう。狩衣を貸してやる」

「ちゃんと暖かい。それにお前、貸してくれたらそのまま返すなと言うだろう」

「いいだろ別に」

「よくない。友人なのだから俺ばかりもらうのは……」

 友人ね、と頼仁は遠貴を横目で見る。遠貴は手を赤くしながら擦っている。きっと悴んでいる。昔から痩せ我慢をする男だから、大概の良い着物は弟や妹に回しているに違いない。もしくはそれを売って書や墨、紙を得ているか。しかし、会うときには大抵、遠貴が頼仁が押し付けた着物を着ているのに、頼仁は満たされるのを感じるのだ。墨のように深くて、夜のように昏い沼に、その感情は身を沈める。夕鶴にもそれで会っているのだろうか、と頼仁は隣を歩く男を見つめる。

 男にしては細く、冬に赤らむ首に、頼仁は心許ない気持ちになる。手は節が目立ち、骨張っているのを見つめると、「なんだ」と声をかけられて、「なんでもない」と返した。何度も夢で掴んだその手を、現で掴んだのは従兄妹の夕鶴だった。文の橋渡しを頼まれた時は面食らったなあと、ひとりでに頭を掻いた。そのせいで髪が乱れ、「乱れてるぞ」と遠貴がおかしそうに笑った。す、と手が伸ばされ、髪を撫で付けられる。すっかり冷めた手の奥に温もりを感じながら、頼仁は「ありがとう」と、友人に対する笑顔をつくった。遠貴が夕鶴と結婚すれば、こうしてふたりで歩くことも少なくなるだろう。そしてふたりの子供を俺が抱いて、世話をしてやる。そんな想像をするが、頼仁は、むなしい感覚に襲われる。遠貴は、もうすぐ誰かのものになる。いや、もしくは既になっている。その隣にいる権利は、頼仁は生まれ持っていなかった。女という性を持つ者だけだ。ずっと胸の奥でくすぶる埋み火を何度も撫でながら、うわべだけを理解していることに頭は冷めていく。頼仁は乾いた唇を噛んだ。今のこの、一瞬だけなのだ。

 頼仁は寒さにわななく遠貴の腕を引いて「そっちは凶が出ている。こっちだ」と言う。その声はなにかを確認したように、いつにも増して大きい。遠貴はそれに驚くが、それに従いしばらく歩くと、一軒の大きな家に当たり、頭を抱えた。

「お前の家じゃないか!」

「たまたまだ。さあ上がれ」

「嘘をつくな、この……」

「外は寒くてかなわん。……新しい書物が入ったんだ。お前に読んでほしい」

 そう言われると、遠貴は弱いことを知っていた。頼仁は遠貴を押し込み、草履を脱ぐ。女中が慌てて迎える足音が聞こえた。

 頼仁は自分の部屋に遠貴を案内した。襖をいささか雑に開けながら、入るよう促す。遠貴が相変わらず汚いな、と言いながら文机の上の書物を丁寧に手に取る。

「お前の妻が羨ましいよ。こんなに書物を読めるなんて」

「はは、書物なんざいつでも読みに来たら良い」

「そうするよ。尚侍にどやされるかもしれないが……」

 苦笑しながら遠貴が言う。遠貴が夕鶴の名を出すと、頼仁はいつも気が焦がれた。以前言い争いをしたと聞いていたが、そちらはどうなったのか。その話を聞いてから、なにか満たされた感覚と、それに対する自己嫌悪が頼仁の心の隅で居座っていたのだ。頼仁の様子を察した遠貴が、幼く見える頬ではにかむ。

「文を内裏で直接もらったんだ。また会いたいと言っていたよ」

 その言葉に、満たされた感覚は頼仁との距離をゆっくりと取る。胸の底が冷えて、こびりついた焦燥感がまた広がる。冷たい氷が指に張り付くように。妹背になるのが当然かのように、遠貴は彼女の名前を挙げたのも、頼仁の埋み火を静かに小さくさせた。よかったじゃないか、とだけ呟くように返す。自分の声が遠く感じる。

 若くして入内した夕鶴は、才媛と名高く、際立った美貌はないものの、他の女には無い、目を引く珍しい美しさを持っている。きつい目つきをして、愛想もよくあるとは言えないが、笑うと春の光に解ける雪のような柔らかさがある。それに、よく勉強している。早くも賢しい女がいると揶揄されるものの、それは男どもの好奇心の裏返しであるし、従兄妹として誇らしく語ることができる。頼仁は女への学問の道を否定はしなかった。今の時分、難しいではあろうが、きっと女性が学問で道を開く時代が来る。しかしそれは、今ではない。女性は結婚で男を立て、優秀な後継を産むことで名を上げることができる。頼仁は、そう、産むことができるのは女だけだ、と思った。夕鶴は学問に秀でるところには通常男は引いてしまうものの、遠貴は惹かれるところがあった。だが学問に秀でるのは女だけではない。男だってそうだ。俺だってそうだ、と頼仁は思った。しかし選ばれるのは、女である夕鶴だ。頼仁が住んでいるのは、学問ならいざ知らず、男と女が結ばれる世界であったから。

 静かに気をおさえて、

「書物を読みに来るくらいは……従兄妹の俺に免じて許してもらおうじゃないか」

と笑いながら言うと、遠貴は

「いや、そこはまあ、俺の日頃の行いに免じてもらうよ」

と手を振った。頼仁は遠貴を見る。遠貴は書物に目を落としながら、照れ臭そうに

「彼女を幸せにしたいと言ったのは俺だからな。そうなれば言葉だけじゃなく、行動で示さないと」

と笑った。

 そうだ、遠貴はそういう男なのだ。頼仁はその横顔を見つめながら思った。

 暗く翳が落ちるような気がして、頼仁はほんの一瞬、遠貴の手を掴もうと手を書物から離した。ばさ、と書物が落ちる。手を掴もうとした反射も既に消え、微妙に空をつかんだ手だけが宙吊りになる。

遠貴は驚いて、どうした、と言いながら書物を拾おうとする。

 叶わない想いと伝えてはいけない感情の前では、すべてが愛おしく映ってしまう。頼仁は息を吸った。この埋み火を吹き消すために。

「夕鶴が心底羨ましい」

 遠貴がなんの冗談かと笑いながら、頼仁を見上げる。頼仁の時間はゆっくりと進む。

 頼仁の、熱のこもったような、切なさを孕んだような視線に、遠貴は動きを止める。時が止まった感覚に、頼仁はおそらく伝わった、と思いながらも視線で遠貴を貫くことをやめない。

 頼仁のその、愛する者に向けるような、慈しみも内包した笑みに、遠貴はうぬぼれであることを願った。遠貴には夕鶴がいるのだ。形式的な結婚という契りは揺らごうとも、夕鶴は、自分を愛している。自分も夕鶴を愛している。だが目の前の男が、夕鶴以上の、自虐や遠慮、そして利己も孕んだ思慕を自分にぶつけてくるのは、遠貴を大きく揺さぶった。

 あたりに静かな音が響いたが、先に目を逸らしたのは頼仁だった。埋み火はまだ、寂しそうに燃えていた。

 

 

 宮中の行事が大方終わり去っていき、今度は如月がやって来ようとしていた。夜の気温は未だにいっそう人々の身体を冷たく包む。しかし今夜は、澄んだ夜空だ。糸が張ったような鋭い空気も併せ持っている。

 遠貴は、夕鶴の屋敷の縁側を急くように歩いていた。自分の中にある蟠りを消すためと、夕鶴との逢瀬は久々であったためであった。縁側の障子は閉められているものの、白い息は空に溶けていく。

 夕鶴の部屋の前に留まると、御簾の向こうにわずかに見える影に、

「尚侍」

と、焦がれた声をかける。立ったまま、すぐにでも触れたいように。

 影が一瞬揺らめき、夕鶴の呼吸が聞こえる。遠貴様、とだけ息が漏れた。その息を、近くで感じたくて、御簾に手を添えた。しかし、離す。

 頼仁とのこともあって、遠貴は――、自分が彼に恋慕を抱いているわけでもないのに、夕鶴を裏切った気持ちでいた。この気持ちを、夕鶴に明かして、それで……。

 それでどうなるのだろうか。

 遠貴は、赦されたいがためにここまで足を運んだことに気付いた。

 夕鶴の声がそれを断つ。

「……今夜は、そのままでお話を聞いてください」

  夢から覚めたような現の冷たさだ。しかしそれはほんの少しの慈しみを以て、遠貴の鼓膜を貫いた。どう反応すればよいか分からずに、ただ、赦されないのかもしれない、という子供じみた不安が、遠貴に生まれた。

 夕鶴は息を吸って、目頭が熱くなるのを感じながら続けた。

「あなたと妹背にはなれません」

 遠貴は足元が暗く重くなるのを感じた。その瞬間、身体中の血が熱くなる。どうして、と訊く前に、夕鶴はまた震えるような、しかしなにかを決めた音で、言葉を紡ぐ。

「……国史の編纂は、私にはできません。だからと言って、諦めることもできない」

 夢は口にすると、今度は夕鶴を強くさせた気がした。夕鶴は熱くなったまぶたに、けれどこのまま泣くことはないだろうと思った。まばたきをして、涙を奥へと逃がす。遠貴はわけもわからないままで、唾を飲み込んだ。そこで一度噛んだ唇が、乾いているのにも気付いた。

「私……、女であるだけじゃないわ。母親や、妻や、女中になるだけの女じゃない。私のことは私が決める、誰がなにを言おうと」

 遠貴は重くなった身体を、誰かに任せたような軸で支えていた。今までにない夕鶴の口調にも少なからず驚いた。過去の夕鶴は幻想かのように崩れ、目の前にはたった一人のひとがいた。

「これからずっと、女の幸せは決められたままの……そんな時代が続くとは思わない。勉学の道だって拓かれる」

 夕鶴は強く拳を握りこんだ。瞳には不安はあるものの、ただの理想論のような熱を孕んではおらず、現を包み込んだしたたかな静けさがあった。

「私は、それを拓きたいの」

 しかし遠貴は、おそらく、自分が愛したひとの核を、そこに至ってはじめて見た。一気にせり上げる涙を、顔を歪めて止めようとした。それでも、小さく、

「……本当に、私では、駄目なのですか」

と、縋るような声を出す。夕鶴は聞いたこともない声に、辛くなった。自分がこの手を離すことで、彼は。

 だが、その弱さを愛せる自分は、おそらくはじめからいなかった。だから、愛せるようになるために、手を離す。

 夕鶴は、羽ばたく雛のように、新しい空に期待を抱き、不安を呑んで震える。

 御簾を上げて、夕鶴は縁側に歩み出た。今までで一番強い光を宿した瞳は、遠貴を貫いた。あまりに強い光に、目を逸らしそうになりながらも、惹きつけられて離れられない。夕鶴は、遠貴の涙を宿した眼をはじめて見た。

「……私を赦さないで」

 はじめて見る一番大きく、直接的な感情に、夕鶴は柔らかく触れるように言った。

 自分とこのひとは、なにもかもさらけ出した仲ではなかったのかもしれない、とも思った。夕鶴はもう恋はしていなかった。

 遠貴はそのままだ。すぐに恋の火を消すことなどできず、憧憬の心は彼を離さない。

「私を愛してくれたあなたを踏み台にするの」

 夕鶴は遠貴にもう触れなかった。

「……もう恋仲じゃない。でもそれは、……この時代の中で、私は、あなたと対等になりたいからなの」

 なにかを捨てる彼女はなぜか美しく映った。最後だから美しく見えるのか、遠貴にとって理由はどうでもよかった。

 夕鶴の夢を、遠貴は一緒に選べなかった。しかし、同じ学ぶ者として、その深い夢の上澄みだけでも分かったつもりだった。

「私は――、いや、俺は。……赦すよ。幸せになりたい。俺も赦されたいから」

 夕鶴は、驚いたような目で遠貴を見る。遠貴は赤らんだまぶたのまま、なにかを秘めて、それを殺したような微笑だった。不満も飲み込んで、諦観がにじみ出るような表情だ。はじめての願いに、夕鶴はそこでまた、少し揺れるのを感じたが、後戻りはもうできないことも、その言葉で改めて感じた。

「……最後に、君を抱き締めてもいいかな」

 遠貴は涙を下まぶたに溜めながら、夕鶴に願った。夕鶴はひとつだけ笑みをこぼして、首肯した。遠貴は壊れ物に触れるように、夕鶴の背中に腕を回す。その抱擁は、この世で一番優しいように夕鶴は感じた。旅立ちを見送る友人のように柔らかく、二度と会えないのを感じる恋人のように切ない。

 ここまで愛してくれたひとを選ばずに、夢の影を追うならば。夕鶴は、生涯を夢に賭けよう、と思った。夕鶴の肩に、遠貴の熱い涙のあとがひとつだけ、いずれ消える傷のように小さく残った。遠貴は、夕鶴の名前を呼ぶことは、終ぞ一度もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3

 

 春は未だに終わらない。桜が咲き乱れ、楽しげに揺れる様子を頼仁は見ていた。激務が終わり、やっと掴んだ休みの中、午前を寝貯めで潰し、ようやく起きたところに、夕鶴が屋敷に訪れていた。どうやら漢籍を漁りにきたらしい。前まで年頃になってからは顔も扇で見せなかったのに、恋人と別れてからは、吹っ切れたようにこうして頼仁に構わず上がり込んで勝手に勉強している。文机に向かう薄い背中に、声をかける。

「……遠貴、昇進するかもしれないとさ」

 夕鶴は遅く起きた部屋の主を見上げて、今起きたのかと呆れた顔をしてから、その報せに笑みを綻ばせた。

「そうなの。……よかった。努力している方が少しでも認められるのはうれしいことね」

「ま、そうだな……」

 頼仁は顎に生えた無精ひげを撫でながら、眠たげに視線を寄越した。夕鶴はそれを一瞥して、また漢籍に目を落とす。しかし、いたずらっぽく笑って、

「気に入ってる人が目立つのは嫌なのかしら」

と揶揄った。頼仁は目を丸くして、眉根を寄せながら、

「……いや? 嫌じゃない、が……」

と呆けた表情をする。久々に見る従兄弟の素のような顔に吹き出しながら、夕鶴は続けた。

「いつも遠貴様のことばかりだから、いつか右腕にでもしたいのかと思っていたわ」

 頼仁はその言葉に、隠しごとが夕鶴に知られているのかいないのか分からずに、複雑な気持ちで唇を歪ませた。目は少し泳ぐ。

「君には敵わんな……」

「こう見えてあなたの従妹で、遠貴様とは恋仲でしたから」

 夕鶴はなにかを見透かしたように笑ったあと、機嫌が良いのか琵琶の『湖水渡』の旋律を口ずさんだ。その横顔を見ながら、前とは違う彼女に開放と安堵を覚え、頼仁はまあいいか、とほほ笑んだ。