好きとは          

ムンヒル   

 

 

 

「別れてほしい。」

夏休み中の補講期間中、付き合っていた相手に振られた。気分は最悪。だが学校にいる手前あからさまに落ち込むわけにもいかなかったので、友達とジュースでも買いに誘おうと思ったが、振られた相手に“気遣われ”て教室には自分だけにされた。教室に一人でいることを強制されどうしようもなく勉強をすることにした。教室はもう薄暗くなっていて照明をつけるも人感センサ付きの照明は一定時間で消灯しまた付け直しに行くという作業を繰り返していると余計に惨めな気分になった。とにかく帰りたいと思ったが帰りのバスまでまだまだ時間がある。勉強にも身が入らず、センチメンタルな気分に浸っていた時だった。

「なんで一人なの?」

北見亜希。違うクラスなのとそもそもあまり関わりはなかったが、今は声を掛けられるだけで嬉しかった。彼女もまた彼氏に振られて未だに引きずっていると噂で聞いたことがあった。そういうことで自分の雰囲気で何があったかは悟られた様だったものの話はし易かった。

「そっちはまだ好きなの?」

「うーん、もう仕方ないかなって。」

自分の話には突っ込まれなかった。今の気持ちを分かってくれているのだと思うと、気持ちは軽くなった。

 その日から亜希とはよく話すようになった。亜希に誘われて彼女が企画していた自主研究にも参加するようになった。彼女は動物好きで海洋生物が漂流物の被害にあっていると聞きその環境保護を目的としたものだった。最初の活動は海岸でゴミ拾いやゴミの種類分けといったものだった。結局は亜希と自分の二人だけしか集まらず意外に肉体労働を要する活動の中で必然的にも亜希との距離は縮まった。

 活動は進み冬になると研究発表の機会が増え、発表時の原稿は文章作成が苦手な亜希に代わり大体自分がやることになっていた。

「私がやってたら小学生が書いたみたいになってたから助かるよ。」

「まあポスター作るのは下手だけどね。」

「と思って枠作って塗りつぶしてねって頼んでるのにはみ出すよね。」

「それは……」

「そう、今度の発表会終わったら遊んでくれない?」

今まで亜希とは学校で話すだけで遊んだりすることはなかった。もちろん二つ返事に承諾した。

 発表は無事終わりその後の質疑応答も滞りなく進んだ。

「亜希ってほんと発表とか苦手なんだね。」

「質問とかされたらなんて言えば良いか分からなくて……」

「そういう時はそれらしく『知りませんでした。調べておきます。』って答えを避けるんだよ。」

「口だけは器用だもんね。」

「今日は何しに来たの?」

「そろそろ修学旅行でしょ。その時の服を買いたくて。」

自分の学校の修学旅行はバンクーバーに行くことになっていてカナダでは温暖な方であるとはいえ日本人にとっては十分に寒いとの話だった。

「家に長い丈のズボンがないの。」

「え……?」

「ほら。ここらじゃ年中暖かいでしょ。」

日本の中ではそうは言っても冬は零下になることはあるし冬は風が強くなるはずだが。やってきたのはショッピングモール。色々な店で服を探した。

「このチェック柄のスカートかわいくない?」

「それで冬のバンクーバーは場違いすぎるよ。」

亜希は学校ではあまり交わることのない明るいタイプだったが、自分の話をよく聞いてくれるためか会話が楽しかった。2,3時間服を探したり、食事をしたりして過ごし電車で帰った。家についたら亜希からメッセージが来ていた。

「今日は楽しかった。夜、電話できる?」

電話はあまり好きではないのだが、今日の買い物は楽しくてテンションがあがっていたので自分もしたいと答えた。今日の買い物の感想や楽しかったことを話し合った。自分も一緒にいた話を再度共有するのはなんだか不自然な気がしたが亜希と話しているのは心地が良かった。

「君といるとずっと楽しい。」

「急に畏まってどうしたの?」

何を言いたいか分からないふりをしていたが期待で胸の鼓動はどんどん早くなっていた。

「段々と好きになっちゃった。よければ付き合ってくれないかな。」

正直に言えば混乱するほど嬉しかった。

「ふーん。」

と意味の分からない返しをしてしまった。しかし自分が別れてからそう経っていないことがどうしても頭の中から拭えなかった。もちろん今うんと言えば彼女は喜んでくれるだろうし、振られた身とは言え今更前の彼女とまた付き合いたいとは思わない。ただ好きという感情が自分の中で分かっていない時に亜希と付き合ってしまうことに後ろめたさを覚えずにはいられなかったし、そういった気持ちを持ったまま付き合うのは違うと思った。それに亜希とは長く仲良くしたかった。だから振られてまだそう時間が経っていないから今はまだ恋愛に興味は持てないと断った。

「それでも好きでいていいですか。」

「もちろん。」

その思いを拒絶するようなことはしたくなかったしできなかった。

 そこから自分は少し亜希とは距離を置くようにした。もちろん活動は続けていたし、仲良く話すのは変わらなかった。「好き」とは何か自分の中で決めるべきだと思った。「前の彼女は『嫌い』なのか。」「他の友達と亜希に対する気持ちの違いは何か。」等と延々と考えるようになり、その答えが出た時にまた亜希に告白しようと思った。

 修学旅行も終わり、冬休みになるという時だった。うちの学校では冬休み前に委員会役員を決めることになっていた。亜希は体育委員会の委員長に立候補するという話だった。

「中学の時からずっと体育委員会だったし、他の人なんか先生に推薦のために無理やり立候補されたって聞いたから多分大丈夫!」

と自信満々に話す亜希を見ていたので委員会活動に興味のない自分はそこまで言うなら大丈夫なんだろうぐらいにしか思っていなかった。だから放課後いつもの活動場で泣き始めた亜希を見て動揺した。対抗相手は演説も内容も適当だったらしいが真面目さよりも人に知られていたことが重要だったらしい。泣いている人を慰めることなどしたことが無かった自分だったが、放課後まで泣くのを我慢していたようだった亜希を見ると自分がなにかしなくてはという思いになった。いつも明るい亜希が目の前で泣きじゃくる姿を見て大丈夫だよと頭を撫でたいと過るもまるで弱った心につけこんで自分の欲情を発散しているような気がした。

まだ自分は亜希に対しての「好き」という気持ちが何か分かっていないままだった。だから

「それはむかつくなぁ」

と少し笑いながら慰めたり、

「すっごい鼻水出てるよ。」

と冗談を言った。それが自分なりの慰め方だと思った。そうしているとたまたま亜希の友達がやってきて亜希をよしよしと抱きながら慰めていた。どうやらその人も事情を知っていたらしい。どうやら委員長が決まったその場でも泣いていたらしく噂になっていたようだ。

「酷いんだよ。私泣いてるのにずっと笑ってんの!」

「かわいそうにねぇ」

「びっくりしちゃって笑うしかなかったよ。」

その夜亜希から電話が来た。

「今日は迷惑かけちゃってごめんね。」

「大丈夫だよ。むしろ笑っちゃってばっかで傷つけてないかな?」

「ううん。むしろ空気軽くしてくれてありがたかった。でもね、活動始める前に落ち込んで教室にいたら山里が寄ってきて肩に手まわされたんだよね……」

血の気が引いた。自分が付き合っていない女子にするにはおかしいと思い保った距離感を簡単に山里に破られるのが正直悔しかった。

「気持ち悪かったね……。」

それを許した亜希にすらイライラした。好きなのではなかったのか。

「それとね、ずっと前から真奈からずっと影口言われてるのは知ってる?」

「うん…。」

詳しくは知らないが亜希と真奈は中学から揉めて、今でも仲が悪いことは知っていた。

「それで今回のことですごい影口言われてたの。」

真奈は自分たちのグループで色々な人の影口を叩いているのはもはや周知の事実だったし、亜希は普段から明るく誰にでも気兼ねなく接していたので鼻につくらしい。明るく優しい亜希は山里といい真奈たちと言いそういった標的になりやすいようにも思った。真奈たちの件に関してはかなり深刻らしくわざと聞こえるように悪口を言われることもあるらしい。

 この時から自分が亜希を守りたいという思いが強くなった。これこそ自分の「好き」だと思った。自分が亜希の心の拠り所になるんだと決心した。普段から亜希と一緒にいるようになった。昼休みは一緒に飲み物を買いに行った。放課後は研究活動で一緒にいれた。確かに影口は言われても一緒にいれば亜希が真奈たちのことを気にすることはないと思った。

 修学旅行が終わった。亜希とは別のクラスだったので特に何もなかったが、偶然道端で亜希を見かけたときあの時選んだスカートを履いていたのを見て自分のように嬉しかった。

 冬休みになって年が明けてすぐ亜希と会う約束をした。

「久しぶり。修学旅行楽しかった?」

「まあ。でも雨ばっかで寒かったね。」

「スカートだからだよ。」

その後もそれぞれ旅行中の思い出を語り合った。

「やっぱり一緒にいると楽しい。」

「それは嬉しいね。」

「やっぱりダメ……かな?」

「え、ダメって?」

「付き合うの。」

自分から思いを伝えるつもりだったのに亜希から再び告白されると思わなかった。

「俺も亜希といると楽しいし、もっと亜希と一緒に居たい。」

「それって……?」

「よろしくお願いします。」

「ほんとに!?」

亜希はぴょんぴょんと跳ねて喜んでくれた。喜びすぎだと言った自分も嬉しさで心臓の鼓動が早くなっていた。

 新学期が始まり、先生と相談し真奈たちとクラスも別れ、亜希と自分は同じクラスになった。陰湿ないじめも無くなりこれからは亜希とずっと一緒に居れる。亜希は

「色々あったからまともに話せるの君だけかも。」

と話していたのでなおさらだ。独占欲ではないが亜希に頼られていると思うと嬉しかった。

ある日放課後補修課題を解いていた時だった。亜希は既に終わっていたが残って一緒に帰ることになった。

「亜希一緒に自販機行かね?」

影下が亜希に話しかけていた。ムッとしたが、もちろん自分がいるので亜希は断ってくれるはずだ。

「いいよ。」

しかし亜希はすんなり承諾した。

「もちろん奢ってくれるっしょ?」

「マジ?俺のも買ってきてくれない?」

同じく課題をしていた山里が割って入ってきた。

「なんでよ。やだよ。」

亜希は笑って答える。その笑顔を見ていられなかった。確かに自分と亜希が付き合っていることは特に周知させているわけではないから誘われるのも仕方ないし、他の友達と話せるようになったことは喜ぶべきだ。建前はそうだった。内心は自分に対して気まずさも覚えずに笑顔で二人きりで自販機に行くことを承諾した亜希にショックしかなかった。いや、亜希は元々明るい性格で人気者だったのだから男友達との付き合いがあっても仕方ないではないか。彼氏なんだから亜希を信じるべきだ。いやでも、俺なら亜希が嫌がることをしないように努める。自分の心の中はぐちゃぐちゃになっていた。耳が詰まったように周りの音が聞こえなくなる気がした。しかし、亜希と影下との会話だけははっきり聞こえて、どすぐろい感情とそれを自制しようとする思考が際限なく繰り返された。

 「なんか怒ってる……?」

亜希に帰り際聞かれた。決して怒っているわけではなかった。怒るべきでもないのは分かっていたが、言葉はやはり出てこなかった。何も考えられなくなっていた。

「いや別に……。」

「え、私なんかした?」

本当に何も心当たりがないのか、怒っているか探られているのか分からなかった。が、あまりにも軽いトーンの亜希との温度差に死にたいと願うほどだった。ただ隠すこともないのではと思い

「影下にちょっと嫉妬しちゃって。」

「ああ、ごめんね、断れなくて……。」

「いやただ嫉妬しちゃったってだけなんだから謝ることないよ。」

断れない?仕方なくの承諾とは思えない笑顔を思い出し、猜疑心で埋め尽くされた。しかし、日を置くごとに自分が嫉妬しただけに過ぎずジュースを買う程度の異性の友達付き合いにあれほどのショックを受けた自分がおかしいと感情を押し殺し、そう自分に思い込ませ忘れることにした。実際亜希は一日自分のところにほとんど居てくれたし、自分の心の矮小さを恥じた。

 夏休み近くなり、亜希に自主研究活動報告によるコンテストに参加したいと言われその原稿を考えるために放課後は毎日残っていた。学校のパソコン室は人目も少なく、亜希とも近くにいることができた。そんな時だった。亜希のラインの通知が鳴った。

「誰から?」

「田代から。」

亜希の元彼だったが、自分は田代とは普段話す仲ではあったので特に何とも思わなかった。

「手伝って欲しいことがあるって。一緒に行こっか。」

田代も研究活動をしていたのと作業する教室も同じだったのでそのことだと思った。

「君と一緒に居るって送ったけど、私だけ来てほしいって……。」

真意は分からなかったが、亜希も直ぐ戻ってくるとのことなので一人で原稿を考えていることにした。しかし、原稿が一段落しても亜希は戻ってこなかったので心配ではあったが、自分たちの屋外での作業の方に先に取り掛かることにした。途中で亜希と田代が教室話しているのが見え、再び嫉妬しそうになったが考えないようにし作業場に向かった。しばらくしてから亜希が作業場に来た。

「ごめん、色々やってもらって。」

「田代はなんだって?」

「うーん……。」

「え、何があったの。」

「なんか真奈たちに影口言われて辛いって。泣いてたから、誰にも言わないでね。」

田代が亜希と同じく真奈たちのターゲットにされていたのは知っていた。そのためにわざわざ作業を中断されるのは解せなかったが亜希だけに来てほしかったのはそういう意味だったのかと納得した。

「それと、この前仲いい女子から告白されたけど断ったって。」

「なんでそんなこと亜希に言ったの。」

「そういうことだからって……。」

亜希に好意を持っていること自体よりも田代の判然としない言葉がムッとした、亜希との関係を知らないのは仕方ないとも思えたし、影下の時と違い亜希も気まずそうな顔をしていたので自分のことを意識してくれていたのだと思った。

「それでなんて返したの?」

「はっきりしないから、そうとしか言えなかった。」

「まあ、知らないなら仕方ないか。でもどうするの?」

「真奈たちのこともあるし、かわいそうになっちゃって。それに……仮にもちゃんと好きだった人だから傷つけたくないの。今はもちろんそういう感情はないけどね。」

何かの糸が切れた気がした。十分に自分は傷ついたのだが。それは自分よりも田代を傷つけたくないと言っているのに等しかった。前から田代と亜希は幼馴染であるので曖昧な距離感も目を瞑っていたが亜希は自分に対しての配慮が一切なかったとしか思えなかった。そもそも田代は前の彼女と交際していた時にも交際していた事実を知らずにそういった出来事があり、当時中学生だった自分は長文で田代に対し怒ってしまった経緯があり、それから田代は自分との交際を知らなかったにも関わらず謝ってくれ変わらず接してきたことで信頼を置いていた。もう田代のことも亜希のことも分からなくなっていた。なによりまるでそれが良いことかのように田代のことをちゃんと好きだったと自分に言える亜希が。自分がそれを聞いて少しでもいやな気持ちにならないとでも考えられなかったのか。それよりも田代か。自分は女友達との関係はすべて切っているにも関わらず。自分の様々な亜希に対する思慮が何も伝わっていないのだと絶望した。

 その時から明らかに亜希の異性との付き合いに耐性がなくなった。少しでも亜希が男と話すと拗ねてしまい、その度に思いを亜希にぶつけた。そうすると亜希は泣いて謝ってくれ、自分だけといたいと言ってくれる。それでも田代や影下との絡みはあったが、段々とその回数は減っていった。田代との関係だけは許したくても自然に苦しくなると伝えると、亜希は田代のラインのアカウントをブロックしてくれた。

夏になれば時期もあり、自然と学校では亜希は自分の隣にずっといるようになった。ただ高校卒業後はそれぞれ別の場所になるのだから、このままでは付き合っていけないと思った。亜希に異性との付き合いはしても構わない。ただ自分の気持ちを考えて欲しいとだけ伝え、残りの間距離が離れてもお互い信頼できるようになる練習をしようと思った。卒業近くになると亜希の異性との絡みもまた増えたが気づけばなんとも思わなくなっていた。

自分は都心の大学、亜希は専門学校に進学した。自分は亜希に対しては何の心配はなかったが亜希はしきりに自分の浮気を心配してきた。そんな気は一切ないといくら説明しても納得してくれなかったが、求められているのはむしろ心地が良かった。

「異性との関わり避けさせたのは自分だし。」

「そうだけど大学に入って人が変わるかもじゃん。」

「大学生に対しての偏見が凄いね。」

高校の時から亜希は大学に行ったら泊まりに行きたいと言っていた。自分は会えなくとも気持ちは変わらないが、亜希と会えるのは久しぶりだったのでやはり嬉しかった。泊まりに来た亜希を迎え、レストランで食事をしたり商業施設で買い物をしたりゲームセンターで遊んだりと勉強で忙しかった高校生活で出来なかったことを埋めるようにしていった。

 遊び疲れる頃には夜になり、家に戻ることにした。

「ぬいぐるみ取ってくれてありがとね。」

「お金なくなっちゃったけどね。そうそう、もうお風呂沸かしてあるから先に入ってもらおうかな。」

亜希が入浴している間にベッドで少し休憩しているとそこに置いてあった亜希のスマホの通知が鳴った。ふと視線に入ったのは田代の名前だった。ダメだと思いながらも亜希のスマホのロックを解除し田代との会話を見た。お互いの家族との思い出を楽しそうに話し合っていた。遡れば、卒業して直ぐから話し始めていることが分かった。信じられなかった。あれだけ異性と関わって欲しくないと言ってこれか。

 しかし実際浮気をしているわけでもなし、勝手に内容まで覗いてしまったのでそのラインは見なかったことにし、元あった場所に戻した。亜希と交代で入浴し夜になりベッドに一緒に入った。ラインのことは忘れ、これからのことを想像し少し興奮していた。亜希が背中を向けたままだったので肩に軽く触れた。

「恥ずかしがらずそっぽ向かないでこっち向いて欲しいな。」

少し力を強めて自分側に引き寄せた。が、亜希はむしろ反抗して手を振りほどいた。ズズッと鼻を啜る音がした。亜希は泣いていた。

「え、どうしたの?」

亜希は沈黙したと思ったら、激しくすすり泣き始め、もはや過呼吸のようになっていた。自分は動揺し何も言えなかった。

数分経っただろうか。少し落ち着いて亜希が口を開いた。

「言いたくなかったんだけどね。高校、楽しくなかった。束縛されるの嫌だった。元々仲いい男友達とも話したかった。それでも君が嫌がるから気を付けても向こうから来るから仕方なく接しても君は私のこと怒るのが嫌だった。」

自分はショックで言葉に詰まり、ただ

「ごめん。」

しか言えなかった。

亜希は壁を向き、自分は亜希の背中を見ながら寝た。いや自分は眠れなかった。亜希は泣き疲れ、寝てしまったが自分は亜希の言葉について考えるしかなかった。自分が悪い?俺は男友達との関わりを制限したことはない。むしろ自分だけがいいとまで言っていたのは亜希の方だ。考える程に亜希に対して腹が立った。田代の話も黙ってんだ。もう亜希のことなどどうでもいい。

そんな時自分のスマホにも通知が来た。酒井だった。中学時代仲の良かった女子だ。

「いまだに亜希ちゃんと仲良さそうで羨ましいな。」

高校時代から俺は亜希の身勝手に我慢してきたんだ。亜希に少しでもイヤな思いをさせないようにしてきた。亜希に対してどれだけの時間を割いてきたか。そうだ。

「実はうまくいってなくてさ……。」

 

亜希も俺と同じ気分を味わせるんだ。