北の塔の魔女の嘘

葉渡 釧羽

これはとある時代のとある小国でのお話です。

その王国のお城にある北の塔には一人の魔女が住んでいました。

 魔女は怖いがとても美しく、そしてなんでもできると吟遊詩人は謳いました。

 魔女はどんな動物とも話すことができ、指先一つで雷を落とすことができ、息を吹きかけるだけで人を生かすことも殺すこともできました。

 そんな恐ろしい魔女がどうしてお城に住んでいるのかは誰も知りません。

 王子の十五歳のお披露目で、城の人が出払っていた隙に住み着いたのです。

 当然、王子や城の人たちは憤りましたが、恐れて魔女には誰も近づきませんでした。

 そうして魔女は北の塔に住むようになったのです。

 

 ある時、城下町に住む娘が北の塔に忍び込みました。

 彼女は魔女に会って、こう頼みました。

「私が想っている人がいます。その人が私と同じくらい、私のことを想うようにしてほしい」

 魔女はそれを聞いて哀しそうに答えました。

「人の気持ちはとても強いものです。私は人の気持ちを変えることだけはできないのです」

 

 ある時、旅する商人が北の塔を訪れました。

 彼は魔女に会って、こう誘いました。

「他人の気持ちが変えられずとも、貴女の気持ちは変えられるだろう。私の妻にならないか」

 魔女はそれを聞いて寂しそうに答えました。

「私の気持ちはもう既に定まっています。私はそのためにここにいるのです」

 

 ある時、王子が北の塔を訪れました。

 彼は魔女に会って、こう尋ねました。

「お前をここに留めている者とは誰のことだ。私が、その者がお前と添い遂げるように図る」

 魔女はそれを聞いて辛そうに答えました。

「私の想う人は貴方です。私は貴方に想いを告げるためにここまで来て、思いを告げられずここにいたのです。」

王子はこれを聞いてとても驚き、悩みました。

魔女に言葉を嘘にしないためには、王子が魔女と結婚しなければなりません。

 詳しく聞けば、魔女は王子の十五歳のお披露目で一目惚れをしたというではありませんか。

 それから今までの長い間、自分を想っていた魔女のことが王子は愛おしくなってきました。

 想いを伝えられなかったというのも、魔女がただの娘ということを王子に意識させました。

 こうして王子は自分から、魔女と添い遂げることを決めました。

 人々は恐ろしい魔女と王子が結婚すると聞いて驚きましたが、二人を祝福しました。

結婚式の場で王子はこう言いました。

 

「お前が城下町の娘に言った言葉だけは嘘だったな」、と。