書評『サクラ咲く』 辻村深月著 七端

 

◎あらすじ

 引っ込み思案でどこにでもいる中学生のマチはある日学校の図書室に「サクラチル」と書かれた紙が挟まっているのを見つける。図書室の本を通じてマチはそれを書いた人物と文通を始める。小学校という狭い世界から一つ開けた世界へと出たマチは、新たな友達、小さな挫折、様々なものを感じ、それを文通で相談しながら心を通わせていた。マチのほんの小さな成長が感じ取れる短編である。

 

 「こんな中学生活送ってみたかった」読後の感想第一声がそれであった。まさしく、青春といったようなキラキラとした話だったから。

 主人公のマチは成績こそまあまあ良いが。あまり大勢の前で発言するのが得意でないどこにでもいる周りに流されやすい中学生である。そのため、クラス委員の書記を押し付けられ、副委員長で小学校からの友人の琴穂からよく自分以外の仕事も任されてしまう。また、小学校ではクラスで一番だったテストでも上位という枠に入るだけになってしまった。今の私たちからしてみれば、ほかの小学校から多くの人が入ってきたのだから当たり前だと思うだろう。しかし、まだ12歳の彼女にとっては確かに挫折となったのだ。まだ、自分の世界が小さくてちっぽけな失敗がとても重大なことに思えてしまう頃、顔も知らない誰かに共感して自分の弱さをさらしてしまうところ、その全てが中学生という年齢によってリアルさを増していた。今の私たちにとっては大した変化でなくともマチにとっては大きな一歩ばかりで決断の連続だったのではないかと考えると、年を取ってしまったと感じざるを得ないのだ。

 この物語は、中学生特有の危うさがとても丁寧に描かれていて私も約7年前の記憶が呼び起こされた。学年に一人はいた不登校の子、クラスの男子との恋、新しくできた友達、それによってなんだか気まずくなる小学校からの友達、そのすべてが普通そのものでとてもまぶしく思えた。たった130ページ足らずにつづられているその全てがまさしく「青い春」であったのだ。

 

 この物語は大きなどんでん返しもなければこれといった山場も特にない、しかし、ありふれているけれどそれで十分満たされるような絵に描いたようなハッピーエンド。それが私たち自身の青春の記憶を思い出させるのだと感じた。こんな何もかも丸く収まるような中学時代であったとは言わないが、それでも確かに楽しかった思い出もあって久々にその時の友達に会いたくなるような小説だった。ぜひ、みなさんもあの頃を思い出してみてほしい。